平成29年5月度の京都先物・証券取引被害研究会・定例研究会は、平成29年5月25日18時から京都弁護士会館会議室で実施されました。
今回は、龍谷大学法学部教授・今川嘉文先生を講師として本会にお招きし、「信認義務法理と損害賠償請求での使い方」という題目で御講演いただきました。70分程度の講義では、近年、金融行政において強調される「フィデューシャリー・デューティー」という用語の説明から始まりました。同用語の対訳が、「信認義務、受託者責任」となるのですが、従来の日本法には明文としては存在しない概念であり、研究会会員としても、従来の法律概念との比較をしつつ講義の理解に努めました。
さらに講義の内容が深まり、英米法での信認義務法理の位置づけの説明がおこなわれました。日本法と異なり、英米法においては、忠実義務が独自の義務として確立していることから、信認義務も導き出されやすいとの説明を受けて理解の整理が進みました。
講義の最後として、日本の法制度における信認義務法理の展開について説明をいただきました。日本法において明文として信認義務を規定した法令はないが、信託法には、手がかりが含まれており、今後、金融実務の動きに合わせての法改正に期待したいと講義が締めくくられました。
講義後、会員との活発な質疑の中で、活発な議論が行われました。英米法圏において信認義務法理が発展している理由はなぜか?との問いに対し、英米法圏においては、不法行為の法理が日本ほどに発展していないため、できる限り契約法理に近い形で対応しようとするためとの回答を得て多くの会員が、納得するところでありました。
議論が進み、現実として、日本の裁判所が信認義務法理を正面から採用した例は皆無に近いのだが、金融行政において、近年、「フィデューシャリー・デューティー」という概念の導入が進められていることから、裁判実務にも、今後、徐々に影響を与えていくものであろうとの期待を込めた共通見解が研究会内で得られました。
今川教授から最後に、信認義務が広く浸透すると、説明義務、情報提供義務のあり方も変わってきて、金融商品の公正な取引、被害者救済に資するものであるとの言葉をいただき、研究会がしめくくられました。
今後、浸透が期待される信認義務の法理を先駆けて学ぶ機会を得ることができ有意義な研究会が実施できました。
文責:弁護士 高谷滋樹